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小野不由美『丕緒の鳥』 丕緒の鳥・落照の獄・青条の蘭 |あらすじ・感想

丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)

 

 

『丕緒の鳥』は、何年かぶりの新作と言うことで、

雑誌の『yomyom』に掲載されるということで、

初めて『yomyom』を買って読んだ記憶がある。

 

今回、新作にあたり、本屋に行って、本を買おうと思ったら、

新潮社の帯に書いてある読む順番の数字が、『図南の翼』よりも早くて、

あれ?そんなに早く出たっけ?

『図南の翼』よりずっと後のことだったように思ったのになあ、と思いながら読了。

 

2001年7月以降シリーズ新作は久しく発表されていなかったが、『yom yom vol.6』(2008年2月27日発売)にて、約6年半ぶりとなる新作短編、十二国記シリーズ番外編「丕緒(ひしょ)の鳥」が掲載された。最新作は同誌vol.12(2009年9月27日発売)に掲載された、柳国を舞台とした短編「落照の獄」である。(引用:Wikipedia)

 

Wikipediaによると、やはり、『図南の翼』よりずっと後じゃん!
私は、講談社X文庫版で以前読んでいたので、

順番通り再読したかったのに、

新潮社さんなぜ、そこに『丕緒の鳥』を入れた……。


気になって調べたら、新潮社版ってずいぶん後に出たみたい。なるほど。

 

丕緒の鳥 (2013年7月1日、新潮社)
図南の翼 (2013年10月1日、新潮社)

(引用:Wikipedia)

 

しかもこのあとも、

 

華胥の幽夢 (2014年1月1日、新潮社)
黄昏の岸 暁の天 (2014年4月1日、新潮社)

(引用:Wikipedia)

 

……逆!逆になっている……!(講談社X文庫版とくらべて)
なぜそうなっているかは分からないけれど、
とりあえず気をつけて読もうと思います。

 

yomyomの2冊目は買っていなかったので、

「丕緒の鳥」以外の3編は初読でした。

 

各話 あらすじ

 <丕緒の鳥>

慶国の新王即位にともない、大射(たいしゃ)の準備を命じられた羅氏の丕緒は、

蕭蘭(しょうらん)が行方不明になって以来、

足が遠のいていた冬官の工房へ赴き、

馴染みの羅人の青江(せいこう)らと共に

大射に使う陶鵲(とうしゃく)をどうするか悩む。

百数十年、自分には断片的な噂しか聞こえてこない、

雲海の上の意思に翻弄され、

時には親しい者を失ったことを思い出しながら、

陶鵲の意匠を思案する丕緒。

農村にいる取り分け目立つ鳥ではない鵲(かささぎ)を陶鵲に使う理由、

その陶鵲を祝賀に際し射ることの意義など、

長い間考えているうちに、

鵲は民を意味するものではないか、と思い至った丕緒は、

陶鵲の意匠に自分の思いを込めるようになっていく。

蕭蘭の思いを汲み取りながら丕緒と青江は陶鵲を作り上げ、大射に臨む。

大射は成功し、その夜の打ち上げの祝杯の最中、

丕緒は新王に呼び出される。

女王は御簾越しに丕緒の大射を「ただ美しかった」と褒め、

「今度は御簾など無しに、二人で見たい」と丕緒に語った。

丕緒は今回の一件で満足して官を退く気でいたが、彼女の言葉を聞いて、

波を越えて矢をかわして彼女の下に飛び込む1羽の陶鵲を思い描いた。

 

<落照の獄>

柳国の秋官・瑛庚(えいこう)は、

3度の前科がある上に16件・23人もの人間を無惨に殺した男・狩獺の処罰に悩んでいた。

殺刑(死刑)にすべきだと言う声は遺族や市井だけに留まらず、

瑛庚の妻さえも死刑を訴えていた。死刑を停止してきた劉王は近頃、

政治への興味を失ってしまったかのような態度を取っており、

今回の件も司法に一任すると丸投げしていた。審理に詰まった瑛庚ら司法府の3名は、直接狩獺に面会しようと牢へと赴く。

 

<青条の蘭>

先王の圧政とその後の長い空位により、

国が荒れ果てていた頃、

迹人の標仲と山師の包荒の故郷のある雁国の北方地域では、

山毛欅(ブナ)の木が石化する奇病が蔓延しつつあった。

安定した実りをもたらさず、

人の食糧や木材としての用途に乏しい山毛欅だったが、

硬化した木は高値で売れるため、人々は病気の危険を顧みず、

これを売って利益を享受した。

しかし包荒はこのままでは餌が減って獣が里を襲ったり、

木が失われることで山崩れが起こるようになると警告する。

そこで標仲は、包荒及び猟木師の興慶と共に、

疫病の薬となる草木を探し始める。

興慶のアドバイスがきっかけで薬となる草「青条」を発見し、

それを殖やそうと試みるが、青条は人の手では育てるのがやっとで

殖やす事は出来なかった。

その時、新王が即位したという話を聞くも

病気の流行が一行に収まらなかった事から

標仲と包荒は王に願い出て青条の卵果を実らせてもらおうと

王宮まで青条を届けようとする。

しかし、荒廃した国土や官吏の横暴などの妨害により、

その道のりは長く険しいものであった。

(引用:Wikipedia)

 

感想

丕緒の鳥

普段の作品は、国王側の話が描かれることが多いが、
この短編集は、国王とは、あまり関わりのない人々を書いている。

丕緒も下官であり、王に会うことはほとんどない。
そのため、丕緒の国王へのやるせなさが、際立っている。

創作に苦悩を感じ、一切を投げ出したいと思うところから、
それでもまた、作りはじめるというさまを描く。

ふと、最近見た、ドラマの「まだ結婚できない男」で桑野が、言った、
「どんな仕事でも、必ず辞めたいと思うときがある……
でも、そこで踏みとどまれたら、それが本当の始まりになる」という言葉を思い出した。

国王である陽子が、丕緒に言葉を掛けるところでは、なんだかしっくりこない自分がいた。

丕緒は、国王である陽子の言葉に救われたと感じるが、
果たして自分だったらどうだろうか、微妙な気がした。
通じた、と感じると描かれているが、どうもそうは思えない。



落照の獄 (ネタバレあり)

「落照の獄」は、現代にも通じる問題を提示しているなあ、と
読了後に静かに思った。

本作で語られていくのは「死刑」という問題で、
死刑にするか否かどっちを選んでも正解ではない、
現代においても考えるべき問題となっている。

他人(犯罪者)の生き死ににかかわることを考えることは、難しい。
死刑は人殺しなのか?人殺しと同等の行為なのか?

理解できない人間を豺虎(けだもの)とみなし、自分のなかから排除する。
私も、凄惨なニュースを見たり聞いたりするとき、
同じことをやっていると省みさせられる。

理解できないというのは不安になる。
不安を消すために遠ざける。
しかし、あるべき姿は、そうじゃない、ような気がする。
そして、情状酌量の余地がないと思われる犯罪者のことを考えると、
遠ざける、考えない方法以外で、どうしたらよいか分からなくなってくる。

作中にもでてくるが「そうじゃないような気がする」という状態。
頭の中の葛藤をよく描いているように思う。
それが、反射なのか?と自分を疑うさまは、頭の中をのぞかれているよう。

結末では、狩獺を、「死刑」とするが、
それが、なぜだか残念な気がしてならなかった。
(作品の結末と言う意味ではなく、主人公の瑛庚に感情移入して)

そして、ふと、この物語は、「死刑」にあらがうものであったように思った。
ひいては、国が傾いていっていることへのあらがいのように思えた。

落照とは、夕日の光のこと。
斜陽の国のなかで、主人公があらがう葛藤を描いている。

 

 

青条の蘭(ネタバレあり)

青条の行く末の話だが、青条が王に届く描写はない。
なんとなく、人生とはこういうものなのだろうな、と思う。
肝心なところは、実は、自分は目撃できなかったりする。
物事は、多くの人々のあいだを通っていき、
自分はその一部にすぎないのだと感じさせられた。

標仲の後悔したくないという強い気持ちは、
文章の端々に切々と描かれている。
その考え方に、共感して、
王のもとまで届けてほしいと私たち読者も思うわけだが、
そう、うまくはいかない。
自分だけでは成し遂げられないことがあるよね、と
現実に引き戻される。

標仲が、官吏に騙されるところなんかは、
これは罠だった、という記述から始まり、
本当に取り次いでくれるのか?と思わされる。
案の定、手ひどい仕打ちがある。
なんで騙されちゃうんだよー!と思ったりしたが、
人間余裕がなく、必死なときは、それが嘘だと気付かないものだ。
その悲しさを思った。

私は、 読後、 え?これ青条なの?となったが、
最後に猟木師の興慶が手にした種は青条だったと思っている。
「地官に話の分かるものがいるときいた」いう
最後に運んでくれた人の描写があったし。
これは、帷湍のことだろう。

どこの国か?という話でいうと、
私は素直に「慶」かと思っていたけど、「雁」だった!
『東の海神・西の滄海』といい、
私は、雁の話が好きみたい。

でも、完全に、関弓を慶の首都だと間違えて、
雁キター!とはならず、いやはや。

この短編は、構成が美しい。
冒頭と最後がうまくまとまっていて、読後感が良かった。
なんだかとても読み返したくなる短編だった。

 

 

 

「風信」は、また次回!

 

 

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参考記事で、そもそも法治国家でないという指摘に納得した。

ブログって何の略~色々なブログ~ : 「落照の獄」

 

ほかの参考記事

『丕緒の鳥』十二国記/小野不由美 | ちょこの読書日記